導入前に知っておきたい
Nano Banana Proの「できないこと」
プロレタッチ現場で直面する5つの課題

話題のAI画像生成ツール、Nano Banana Pro。その利便性から導入を検討する企業やクリエイターは増加傾向にあります。しかし、プロフェッショナルなレタッチ現場で実戦投入する場合、期待と現実のギャップに直面するケースが少なくありません。
東京レタッチでは、エンターテインメント業界を中心に数多くの写真レタッチを手がけてきました。その現場で培った知見に基づき、Nano Banana Proの実務利用における課題と、適切な活用領域について解説します。
※本記事を読む前に、一点お断りしておきたいことがあります。
初代「Nano Banana」のリリース(2025年8月26日)から、次世代モデル「Nano Banana Pro」の登場(2025年11月20日)まで、わずか3ヶ月足らずで劇的な性能向上が見られました。この進化速度を踏まえると、本稿に記載されている技術的な制約や仕様(解像度やVRAM制限など)は、数ヶ月で過去のものとなる可能性があります。あくまで執筆時点(2025年12月)での知見であることを前提にお読みください。
- この記事を読んでほしいのはこんな人
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- 自社業務へのAI導入を検討している企業の広報・マーケティング担当者
- クライアントワークでの活用を模索するデザイナーやレタッチャー
- AIツールの実務的な限界と可能性を正確に把握したいプロジェクトマネージャー
東京レタッチは、芸能人・エンターテインメント業界に特化したプロ品質の画像修正サービスです。
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レタッチツールと生成AIの本質的な違い
まず認識が必要なのは、Nano Banana Proは「レタッチツール」でも「デザインツール」でもないという点です。
Photoshopのような従来のレタッチソフトは、元画像のピクセルを直接加工します。デザインツールであれば、レイアウトや数値を厳密にコントロール可能です。対してNano Banana Proは、テキストや元画像を参考に、新しい画像をゼロから「生成」する仕組みを持ちます。
これは、修正したくない箇所まで意図せず変更されるリスクや、意図した通りの配置・色味に仕上がらない可能性が排除できないことを意味します。この構造的な違いを理解せずに導入すると、現場のワークフローに混乱を招きます。
実務検証で浮き彫りになった5つの現実
実務を通じた検証の結果、導入の障壁となる具体的な懸念点が5つ見えてきました。
1. 【品質】解像度不足と意図しない質感の変化
Nano Banana Proの最大出力サイズは、長辺最大4096ピクセル(4K対応)です。具体的には、16:9のアスペクト比(横長)で4096 x 2304ピクセル、9:16(縦長)で2304 x 4096ピクセルとなります。モニター上での閲覧には十分ですが、ポスターや屋外広告など、大判印刷を前提とする案件では解像度が不足します。
また、設定上は4K出力を指示しても、実際には長辺2500ピクセル程度に縮小されて出力されるケースがある点にも注意が必要です。これには主に3つの技術的な理由があります。第一に、4K生成に必要なVRAM(ビデオメモリ)が不足している場合、システムがクラッシュを防ぐために自動的に解像度を下げて処理を安定させることがあるためです。第二に、無料枠や特定のAPI連携サービスでは、利用可能なリソース制限により、出力上限が制限されている可能性があります。
加えて、AIによる「意図しない質感の変化」も無視できません。肌のキメ、服の繊維、髪の毛の流れといった微細なディテールを、AIが独自に描き直す傾向があります。商品や人物の質感を忠実に保つ必要があるビジネス用途において、勝手なディテールの変更は致命的な問題となり得ます。
2. 【同一性】「本人らしさ」を損なう圧縮と再構築
顔の特徴を固定する機能は搭載されていますが、完全ではありません。アングルを変えずとも目鼻立ちが微妙に変化し、本人とは異なる顔立ちが出力されるケースが散見されます。
これには、生成モデルの「ネイティブ解像度」が大きく関係しています。以前のモデルは1024ピクセル角程度を得意としていましたが、技術の進歩により、最新のモデルではネイティブ解像度が2K程度(約2048×2048ピクセル)へと向上しています。しかし、それでも4K解像度で直接生成しようとすると、モデルが得意とする解像度を超えるため、細かいディテールを無理に補完しようとする処理が働きます。この過程で、意図しないアーティファクト(画像の乱れ)や顔立ちの変化が発生しやすくなるのです。
さらに、AI画像生成の根本的な仕組みである「情報の圧縮と再構築」も大きく影響します。AIは入力された画像を一度数値データに圧縮する際、「その人固有の毛穴のパターン」や「服の繊維の質感」といった微細な情報を、不要なノイズとして切り捨てる特性があります。失われたディテールはAIが知っている「一般的な平均値」で埋め合わされるため、結果として「顔立ちは整っているが本人ではない」「似ているが質感が安っぽい服」という現象が不可避的に発生します。
また、口を閉じている実在の人物の写真を笑顔に変更するよう指示した場合、AIは新たに元の写真には写っていない歯を生成します。しかし、その歯並びはAIが学習データに基づいて勝手に作り出したものであり、本人の実際の歯並びとは異なる可能性が極めて高いです。さらに、生成された笑顔の表情自体も、その人が普段見せる自然な笑顔とはかけ離れており、結果として別人に見えてしまうケースも少なくありません。
イラストや架空の生成キャラクターであれば、特徴がある程度一致していれば同一と認識されやすく、一貫性を保つことは比較的容易です。しかし、実在する人間の写真の場合、見る側は極めて微細な差異にも敏感に反応します。そのため、生身の人間において「本人らしさ」を完全に保ち続けることは、現状の技術では極めて困難です。
弊社では芸能関係の写真を扱う機会が多く、熱心なファンや本人から見ても間違いなくその人だと思わせるレベルが求められるため、Nano Bananaを人物のレタッチ業務に使用していません。タレントやモデルの顔はアイデンティティそのものであり、わずかな変化がクライアントやファンの信頼を損なうリスクに直結するためです。
3. 【コスト】従量課金制による予算管理の複雑化
コスト構造が従来の買い切り型ソフトとは根本的に異なる点も考慮が必要です。Nano Banana Proの課金体系は利用環境によって主に以下の3パターンに分かれ、それぞれ予算管理の方法が異なります。
・Gemini Advanced(Webブラウザ版)の場合
Google One AI Premium等の月額サブスクリプション(定額制)で利用でき、生成枚数の上限も比較的寛容です。個人向けの「Advanced」や法人向けの「Enterprise」プランでは、手作業で試行錯誤する分には事実上の使い放題に近い環境が提供されています。アイデア出しや検証段階ではこちらが推奨されます。
・Photoshop連携(API経由)の場合
外部プラグインを通じてPhotoshop内で利用する場合、Google Cloud(Gemini API)の従量課金が適用されます。1枚の生成ごとにコストが発生するため、「とりあえず100枚出して良いものを探す」といった従来の「AIガチャ」的な使い方は、そのまま経費の増大に直結します。
・その他のAPI組み込み利用
自社システムやSlackなどに組み込んで利用する場合も同様に従量課金となります。特に高解像度(4K)生成は、低解像度生成に比べて単価が高く設定される傾向にあり、解像度設定ミスによる予期せぬコスト増にも注意が必要です。
このように、試行錯誤を繰り返すプロセスそのものにコストが発生するため、従来のソフトウェアとは異なる厳密な運用ルールと予算管理が求められます。
4. 【操作性】「ここだけ直して」に対応できない再生成の仕様
プロの現場では「この部分の色だけ明るく」「このシミを消して」といった具体的な修正指示が日常的に発生します。しかし、画像全体を再生成するNano Banana Proの仕組み上、修正したい箇所以外も変化してしまうリスクが常につきまといます。
「複数枚を生成して選ぶ」というプロセスであれば機能しますが、「指定された箇所を正確に修正する」というクライアントワークの要求には応えきれません。1回の修正指示に対して何度も生成を繰り返せば、工数とコストだけが膨らみます。
社内利用であっても、上司の修正指示に対応できず試行錯誤を繰り返すようでは、業務効率化という本来の目的から遠ざかります。正確な修正が求められる場面では、最初からプロのレタッチャーやデザイナーへ外注する方が、結果としてコストと時間の最適化につながる場合があります。
5. 【連携】Photoshop API利用時の品質不足
外部プラグインやスクリプトを用いて、Nano Banana ProをPhotoshop内で直接呼び出す運用も可能です。この方法には、Webブラウザ版で強制付与されるウォーターマーク(ロゴ透かし)を回避できるという大きなメリットがあります。しかし、Adobe純正機能である「生成塗りつぶし(Firefly)」と比較すると、実務上無視できない致命的な弱点が2点存在します。
「継ぎ目」と「ライティング」の不整合
Adobeの「生成塗りつぶし」は、周囲のピクセル情報(光の方向、ノイズ感、被写界深度)を高度に解析し、境界線が自然に馴染むように生成します。対してNano Banana Proは、選択範囲に対して画像を生成するものの、位置合わせの精度が甘く元の被写体からズレてしまったり、境界線が馴染まずに選択範囲の形がそのまま継ぎ目として残ったりする傾向があります。結果として、馴染ませるための位置調整やマスキング、色調補正といったレタッチ工数が追加で発生してしまいます。
解像度不足による「ピンボケ」現象
前述の通り、本ツールのネイティブ解像度は現状2.5K程度が限界です。高画素(4000万画素以上)の撮影データを扱うレタッチ現場において、選択範囲に低解像度の生成画像を埋め込むと、その部分だけ明らかに解像度が落ち、ピンボケしたような仕上がりになります。これを回避するには、生成後に別途アップスケーリング処理を挟む必要があり、シームレスなワークフローとは言い難いのが現状です。
AIツールが有効に機能する領域
前述の課題を考慮した上でも、Nano Banana Proは用途を限定すれば強力なツールとなり得ます。以下のような領域では、AIツールの特性が活かせます。
・イメージの具体化と共有
撮影前の絵コンテ作成や広告カンプ、デザイン初期段階のモックアップなど、完成形の手前にある「イメージ共有」のフェーズでは高い有用性を発揮します。
・YouTubeのサムネイルやウェブ広告バナー
細部の正確さよりも視覚的インパクトが重視される媒体や、大量のクリエイティブを短期間でテストする運用型広告において有効です。ただし、実在のタレントやモデルを含まない場合に限ります。
・小規模・Web媒体での利用
SNSのプロフィール画像、ブログ記事のイメージカット、Web媒体のサムネイルなど、表示サイズが比較的小さい用途であれば、細部の粗も許容範囲内に収まります。
・社内資料と概念の可視化
外部に公開しない社内プレゼンテーション資料や、ビジネスSNSにおける概念的な投稿画像など、ムードを伝える用途に適しています。
プロのレタッチが必要な案件とは
一方で、以下のような案件では、AIツールでは対応しきれないプロフェッショナルなレタッチが不可欠です。
タレント・モデルの顔が含まれる商業写真
芸能事務所、出版社、広告代理店などからの案件では、「本人らしさ」の維持が絶対条件です。ファンや本人が見ても違和感のないレベルでの仕上がりが求められるため、AIの「圧縮と再構築」による顔立ちの変化は許容できません。
具体例:
タレントの雑誌表紙・グラビア撮影
アーティストのCDジャケット・プロモーション素材
モデルを起用した商品広告・カタログ
印刷を前提とした案件
印刷には一般的に300〜350dpiの解像度が必要とされますが、4K(最大4096ピクセル)では、A4サイズ(210×297mm)程度が実用上の限界となります。それ以上のサイズでは画質が粗くなり、商業印刷に耐えられません。
具体例:
A3サイズ以上のポスター・フライヤー
雑誌の見開きページ(B4サイズ相当)
店頭ディスプレイ用のパネル
ブランドイメージを厳密に管理する必要がある案件
企業のコーポレートサイト、ブランドカタログ、商品パッケージなど、色味や質感に厳密な基準がある案件では、AIの「意図しない変化」がブランド毀損のリスクになります。
具体例:
高級ブランドの商品撮影
食品パッケージ(実物との色味の整合性が重要)
企業の年次報告書・IR資料
クライアントからの細かな修正指示に対応が必要な制作物
「この部分だけ明るく」「背景のこの要素を消して」といった具体的な修正指示が複数回入る案件では、再生成による予期せぬ変化がプロジェクト進行の妨げになります。
具体例:
編集部からの細かな修正指示が入る雑誌制作
クライアント確認を経て段階的に仕上げるカタログ制作
複数の関係者承認が必要なコーポレート案件
人物の同一性維持が重要な連続案件
シリーズ広告、連載企画、定期刊行物など、同じ人物が複数回登場する案件では、回をまたいで「本人らしさ」を維持する必要があります。
具体例:
連載雑誌のレギュラーモデル
シリーズ展開される広告キャンペーン
定期的に更新されるWebサイトのメインビジュアル
まとめ:適切な判断基準を持つために
Nano Banana Proは万能ではありませんが、適材適所を見極めれば有用な選択肢です。重要なのは、ツールが「何をするものか」「何ができないか」を正確に理解し、業務プロセスのどこに組み込むかを明確に線引きすることです。
判断のチェックリスト
以下の項目に1つでも該当する場合は、プロのレタッチャーへのご相談をお勧めします。
✅ 実在するタレント・モデルの顔が含まれる
✅ A4サイズを超える印刷を予定している
✅ ブランドガイドラインに沿った厳密な色管理が必要
✅ クライアントからの段階的な修正指示が想定される
✅ 同じ人物・商品が複数の媒体に展開される
✅ 「本人らしさ」「商品の実物らしさ」の維持が重要
東京レタッチでは、エンターテインメント業界を中心に培ってきた経験と技術で、新しいテクノロジーの可能性を検証しながらも、人間の目と感性でしか守れない品質基準を維持しています。
導入判断に迷われた際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
よくあるご質問
- Nano Bananaで人物のレタッチはできますか?
- いいえ、できません。Nano Bananaはレタッチツールではなく、元の写真を基準に新しい画像を生成するツールだからです。「肌だけをなめらかにする」「輪郭を少し細くする」といった、元画像のピクセル情報を保持したままの微調整は行えません。修正したい箇所以外もAIによって再構築され、変わってしまうリスクがあります。
- Nano Bananaを使えば、生成した画像はそのまま商用利用できますか?
- Nano Banana Proの利用規約上、有料プランであれば商用利用権が付与されるケースが一般的です。しかし、生成物が既存の著作物と偶然似てしまった場合、著作権侵害のリスクを完全に否定することはできません。特にエンターテインメント業界やナショナルクライアントの案件では、権利関係のクリアランス(安全性の確認)が厳格に求められるため、メインビジュアルとしての使用には慎重な判断が必要です。
- Nano Bananaを導入すれば、外注費などのコストは削減できますか?
- 単純なコスト削減には直結しない場合が多いです。AIツールは指示(プロンプト)出しと選定の試行錯誤に人件費がかかり、さらに生成枚数に応じたクレジット費用も発生します。「品質よりもスピードや量を最優先する」という特定の領域(Web記事のアイキャッチ画像など)では削減効果が見込めますが、高品質なレタッチが必要な領域では、専門家に外注した方が結果的にコストパフォーマンスが良いケースも多々あります。
- アップロードした写真や生成データは、AIの学習に使われますか?
- 利用するプラン(個人向けGemini Advancedか、企業向けGemini Enterprise/Businessか)やAPIの設定によって異なります。特に企業導入の場合、機密保持の観点から「入力データが学習に利用されない」設定になっているか、契約プランの利用規約を事前に確認することが不可欠です。
- 生成された画像は、レイヤー分けされたPSD形式で書き出せますか?
- いいえ、書き出せません。Nano Banana Proが出力するのは、すべての要素が結合された「一枚の画像(フラットな画像データ)」のみです。そのため、「人物と背景を別々に動かしたい」「特定の文字だけ消したい」といった編集を行うには、生成後にPhotoshop等で切り抜きや修正を行う従来の作業工数が発生します。
- 自社の商品や特定のタレントをAIに学習させて固定することはできますか?
- 現時点の標準機能では、特定のデータを追加学習(ファインチューニング)させて固定することはできません。あくまでプロンプト(指示文)や参照画像によって「似せる」ことしかできず、厳密な形状やロゴの正確な再現が求められる商品画像の生成には不向きです。






